12.

なぜそう思ったか解らない。
ただ、時波というながもたらす存在感が、恐怖感が、俺の体をはじけさせた。
紫焔と零未を抱きかかえ後方に跳躍する。
その瞬間、念動波が俺たちの頭上を通過した。
……?
いつ打った? なぜ?
そんな考えが頭をよぎった。
なぜ死の予知が働かなかった。あのままあそこにいたら間違いなく死んでいた
というのに。
空間をとばして念動力をとばす能力?
違う。空間を飛ばそうと、奴が意志を込めてから発動する能力であれば……
すなわち、時間的な連続性を持って発動する事象であればいついかなる時でも
察知できるのが俺の能力だ。となると理由は一つ。
「奴は…時間を止める」
俺たちははじけるように距離をとった。
俺の死の予知が……通用しない。
こんな能力があったのか。
いつもよりも一層、絶望的な戦いを強いられることになった。戦いになるのか?
俺たちは何の為すすべもなく、絶命させられるだけではないのか。
恐怖が、身を包んだ。
これが、時波の当主。その名の通り時を操る能力……
見くびっていた。こんな能力があれば、玖能の本拠地に乗り込んで一人残らず
惨殺することとて可能ではないか。
俺はじりじりと距離を取った。
しかし、紫焔が前に進み出た。
「紫焔、逃げろ!」
「時波ごときに、玖能の当主は背を向けたりなどしない」
ばっしゅうう…!!
紫焔の体が紫色のオーラに包まれる。
ふれれば一瞬で体が蒸発する、数千度のオーラに。
これが玖能千年で最強の怪物、紫焔。
紫焔はその球形のオーラから、幾筋もの熱線を放出した。
熱線は高速に奴めがけて飛ぶ。しかし、
瞬きした瞬間、奴は瞬間移動し、それをかわした。また時を止めたか。
それでも紫焔は続けて熱線の放出を続ける。
奴はそれもすべてかわす。時に念動波を打ち、紫焔の熱線をうち消す。
当たらない……
しかし……光明は見出した。
奴は時を止められるのは一秒にも満たない時間しかない。さらにその間隔は最低でも
五秒は必要らしい。
そして、時を止めてもオーラが紫焔を被っている限り、紫焔を倒すことはできない。
つまり、時を止めている間に攻撃できる範囲は念動力を放ってもせいぜい10m。
それ以上離れていれば時を止めている間に気づかれずに殺される心配はない。
そして五秒あれば、接近して攻撃するには十分な時間。
つまり全く勝ち目のない相手ではないということだ。
しかし、奴は恵まれた体力、優れた体術、卓越した治癒能力があるため確実に一撃で
瞬札することは極めて困難。
五秒以内に倒せないと、奴の間合いで時を止められて気づく前に死ぬ結果となる。
やはり俺が奴を倒すのは不可能としか言えない。
しかし紫焔なら。
紫焔が居てくれて本当に良かった。この怪物にも負けていない。
紫焔のオーラは奴の念動力をもはじき飛ばし、四散させる。
オーラに包まれた状態の紫焔は無敵状態。
時を止めようがどうしようが倒すことはできないのだ。だが……
四散させることができるのはこれだけ距離が離れているからだ。
至近距離から連発されたらやはり破られる可能性もある。
そして、紫焔の能力がいくら強大とは言え、無尽蔵ではない。
いつかは力つき、倒されてしまう。
どうしたらいい……どうしたら。
紫焔は熱線の数をさらに増やした。時折、さしもの奴も数筋の熱線に
体を貫かれる。しかし奴の超回復力がまもなくその傷を治してしまう。
「お兄さま……」
紫焔がこっちを見る。何か策はないか、という顔だ。
「灼死を当てる以外に、あいつを倒すことはでない」
灼死……紫焔の必殺技。短距離の目標を、一瞬にして十万度ほど温度を
上げ、プラズマ化し消滅させる技だ。
「俺と零未が奴を足止めする。だから……」

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