6.

避け切れなくてもかまわない。
俺は全力で避けた。
ざしゅ…
奴の腕は俺の左肩に直撃した。奴はそのまま腕を振り抜くのではなく、
肩をつかみ、引きちぎった。
左腕がもげ、鎖と肋骨が飛び出し、引きちぎられた動脈から血が噴き出した。
致命傷だ。後1分も持たず、俺は死ぬ。
奴は引きちぎった左半身を捨てると、とどめを刺すべく必殺の右腕を振り上げ…
後ろに跳躍した。
次の瞬間、奴のいた空間が爆発した。零未の特殊能力が生み出す「爆弾」は、
高性能TNT火薬を凌駕する。

来てくれた…。
絶望の中に光を見出した。

「日沖……!」
「……」
駆け寄ってきた零未が、即座に俺に気を送ってくる。
出血が収まってきた。
ひとまず死期は遠ざかった。

「獅子咬は…」
「はい」
彼女は刀を持っていた。
一降りの刀、獅子咬。
玖能でも最強クラスの攻撃力を持つ武器。
俺の刀だ。
「持ちこたえてくれ」
俺は残った右手で獅子咬を握り、よろよろと立ち上がる。
「わかった」
零未も多くは語らない。戦術においては俺の方が上であることは百も承知している。
その俺がこれほどの深手を負ったことで、相手がどれほどの難敵かも承知している。
そしてそれでも…勝つための戦略を俺が見出すことを承知している。

「よくも日沖を……」
零未は奴を見据える。
奴もまた零未を見据えた。半死半生の獲物など打ち捨て、新たにやってきた
生きのいい獲物の方を。
零未の能力はエネルギーの生成だ。
強大でほぼ無尽蔵なエネルギーを放出し炸裂させる。
爆発させれば爆弾に。応用すれば盾にもなる使い勝手の良い力。
玖能で最強クラスの力と言われる所以だ。
零未は奴に向けて力を放出する。
だがそれでも、時間の問題だろう。奴は玖能のレベルを突き抜けた怪物なのだから。
奴を倒せる可能性があるのは玖能の当主紫焔くらいだろう。
零未が流血する。
奴の腕は零未のエネルギーフィールドを突き破って易々とダメージを与える。
零未の攻撃はほとんどかすり傷しか与えられない。
また、エネルギーフィールド全開で戦う零未と肉体能力のみで戦う奴では
消耗度が全く違う。…あまり持たない。
それまでに、決定的な奴の隙をつき、倒さねばならない。
「は…くう…!」
「……」
零未のエネルギー弾と奴の拳が交錯する。
奴の胸の皮膚がはぜ、肉から血が出た。しかし筋肉のヨロイは破れない
零未は右腕がへし折れた。あれではもう使えない。
「ああ……!」
「ほう……」
奴は初めて声を発した。
「少しはやる…さすが玖能か」
「貴様…時波ね……」
「時波地雷。それが俺の名だ」
時波地雷と名乗った奴は、腕を振り上げた。それは致命的な一撃となり、
零未の体を粉砕するだろう。
「死ね」

トン……
その一瞬前に。
俺が繰り出した獅子咬が奴の傷に突き立った。
胸の筋と筋の隙間を通し、身体の内部に到達する。零未が与えてくれた傷が、
俺の刃を通す道になった。

「な……に……?」
名乗る必要など、しゃべる必要など無かった。
奴はただその腕をふるいさえすればよかったのだ。
とどめを刺す瞬間に気を緩ませるとは何という隙か。
生物として圧倒的に強いことも、戦士としての圧倒的強さには繋がらなかったらしい。
あるいはその圧倒的な強さが気を弛緩させたのか。
いかに強大な生物でも、異能者でも、心臓を貫かれれば死ぬしかないのに。
……


戦闘能力を失った俺と零未は玖能の本拠地に帰った。
その後玖能は本腰を入れて原野を探り出したが、すでに時波の陰を
見つけだすことはできなかった。

「ああ、お兄さま…おいたわしい……」
「紫焔…いいよ、一人で食べられるから」
「いいえ! お兄さまにはこの紫焔がてずから食べさせて差し上げますからね。
全く零未! あなたがついていながらお兄さまをこんな目に遭わせるなんて全く
この無能者! 粗忽者!」
「も、申し訳ありません紫焔様…」
「紫焔、やめないか。俺の不注意だ」
「でも……」
「いいから、少し休んでこいよ」
「わかりました……お兄さまも少しお休みください」
「ああ…」
紫焔は下がっていき、傍らには零未が残った。
「ふう…この怪我じゃ俺もお払い箱だな」
戦えなくなった戦士などに用はない。処分されるか、どうなるかは不明だが。
「そんなこと言わないで、日沖。……私がずっとそばにいて、
支えてあげるから」
零未が突然そんなしおらしいことを言う。
「……ああ…サンキュ…」
零未がいてくれるなら、まだやれるかもしれない。
今はゆっくり体を休めよう。

俺は零未の肩を抱いて、そっと目を閉じた。

零未END